仕事をしていると、破壊衝動に駆られる。
敬語というものが、ビジネスマナーというものが、業務というものが、資本主義というものが、急にバカバカしいものに感じられ、それらと距離を置きたくなる。
自分が置かれている「サラリーマン」という安定した環境を破壊し、何も持っていなかったあの日に逆戻りしたい衝動に支配されそうになる。
今日はリモートワークで、オンライン会議に参加した。僕はまだ新卒入社してから4ヵ月しか経っていない未熟者なので、発言することはほとんどない。
今後開発予定の仕様を先輩が偉い人たちに説明する姿を、ただ無言で眺める。
来年には僕も仕様説明会議で発言することになるから、見てやり方を覚えろと言われている。
そんな会議の途中、急に破壊衝動に駆られる。
いま「挙手ボタン」を押し、「すいません。画面共有します」と言って皆の注目を集めたうえで、いきなり陰部を露出したらどうなるだろうか。
どうなるだろうかというか、普通に逮捕されてクビになるに決まっているし、そんな理由で逮捕されたら、次の就職活動にも悪影響を及ぼすに決まっている。
でも、理性ではそう分かっていても、頭の中の悪魔が「挙手ボタンを押せ」と語りかけてくる。
目の前に簡単に実行できる「人生を終わらせる方法」があるからこそ、それを実行してしまった世界を想像してしまう。
対面の会議でも、プロジェクターの前で話す先輩の姿を見ると、卵を投げつけたくなる。
もちろん、先輩のことが嫌いな訳ではない。むしろ手厚く世話をしてくれる良い先輩だと思って感謝している。
しかし、頭の中の悪魔がささやくのだ。「卵を投げろ。トマトを投げろ。真っ白なプロジェクターを黄色や赤色に染めてやれ。」と。
オフィスでPC作業をしていると、社用PCを使ってニコ生配信をしたくなる。
配信していることに気付いた上司が僕の元に来て、ゆっくり音声が「上司きた」「やばい」「ワロタ」「www」「まずい」とコメントを読み上げているのをBGMに、説教されたい。
部長が今月の売り上げをプロジェクターに投影して話している最中、おもむろにリュックから取り出したポップコーンを口に運びたい。
部長のプレゼンがイマイチだったら、ポップコーンを投げつけたい。
課長がトイレに離れた隙に、課長のスマホにバターとイチゴジャムを塗ってみたい。
オフィスで打ち上げ花火をしてみたい。
廊下ですれ違った取引先の偉い人に「うっす、おつかれぃ」と言ってみたい。
僕はまだ心身ともに健康で、破壊衝動を理性で押さえつけられているからいい。
ただ、今後長く仕事をしていくにつれ、責任と権限を与えられ、毎日業務に忙殺されるようになった時、僕は僕を抑えられる自信がない。
悪魔の誘惑は日に日に強くなっている。明日にでも、悪魔と契約を交わしてしまいそうな気がしている。
「終わり」はすぐそこまで来ている。