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ヨーグルトを8kg買った

西友の「みなさまのお墨付きヨーグルト」を20個買った。1つあたり400gなので、合計8kgだ。今、冷蔵庫に8kgのヨーグルトが入っている。

 

 

いつからそんな習慣があるのかもはや覚えていないが、僕は食事の後に必ずデザートを食べる。1000kcal超えの特大チョコレートパフェを食べる場合もあれば、キャラメルを1つ口に放り込んで終わる場合もある。しかし、とにかく甘い物を口に入れないと食事が終わった気分にならない。

こんな食生活はとても健康的とは言えない。一般的にデザートには糖分も脂質もたっぷり含まれており、毎食それを食べると過剰摂取につながる。食事のたびに甘い物を食べて幸せになれるのは嬉しいが、心臓病や高コレステロール血症などのリスクは避けたい。とはいえデザートを完全に廃止するのもハードルが高いため、まずは毎食のデザートを健康的なものに置き換えるところから始めることにした。

 

健康的なデザートにはいくつかの種類がある。真っ先に思いつくのは果物だろう。チョコレートやキャラメルを食べるよりも、リンゴやオレンジを食べる方が身体には良い。ただ、果物は保存や準備に難がある。果物によるが、多くの果物は2週間も冷蔵保存すると味が落ちてしまう。バナナやみかんは良いが、リンゴなどは食べる前の準備に手間がかかる。
果物以外の健康的なデザートとして、ナッツやチーズも有名だ。しかし、これらには甘さが足りない。僕は甘いものを舌に乗せた時の幸福のためにデザートを食べるのであり、ナッツやチーズでは役割を果たせない。

では、ヨーグルトはどうか。チョコレートに比べれば糖分や脂質が少なく、タンパク質やカルシウムが豊富だし、乳酸菌が多く含まれるので腸内環境の改善に役立つ。また、ハチミツ、イチゴジャム、ココアパウダーなど、かけるものによって異なる味を楽しめるため、飽きが来づらい。良いじゃないか、ヨーグルト。全てのデザートをヨーグルトに変えよう。そう思い、8kgのヨーグルトを買ったのであった。

 

 

 

ヨーグルトは楽天西友ネットスーパーで購入した。実店舗で買うと持って帰るのが大変だし、何より同じ商品を買い占める行為は店側に迷惑がかかるためである。

 

配達時間になり、ドアチャイムが鳴る。玄関前に立つ配達員は両手にビニール袋を持っていた。どちらのビニール袋にもヨーグルトがパンパンに詰まっており、配達員はこちらをまじまじと見つめてくる。商品を受け取り、お礼を言って玄関ドアを閉めるとき、被害妄想かもしれないが配達員に部屋の中を覗かれたような気がした。

配達員が客の顔をじっと見たり部屋の中を覗くのはあまり良い行為とは言えないが、今回ばかりは僕が悪い。配達員がそのような行動を取る気持ちはよくわかる。僕が配達員だったら、8kgのヨーグルトを注文する客を観察したくなるだろうし、部屋の中も見たくなるだろう。

 

配達員は、配送拠点で8kgのヨーグルトを受け取った時点で気になったはずだ。「注文したのはどんな人なんだろう」と。賞味期限が1週間程度のヨーグルトを1人で消費するとは考えにくいので、客は施設や大家族であると考えたはずだ。しかし配達先は狭いアパートで、出て来たのも標準体型の成人男性だったため不審に思ったのだろう。この体型の成人男性が、1週間で8kgものヨーグルトを食べる訳がない。もしかすると、食料以外の目的で買ったのかもしれない。例えば、乳酸菌の研究用に買ったのではないか。

確かに玄関から出て来た客はまだ若く、とても自宅で乳酸菌の研究をしている人間には見えない。ヨレヨレの服を着た間抜け面のこの客には、研究者らしい要素がひとつもない。天才の大多数は努力に努力を積み重ねた痕跡が表情や振る舞いに滲み出るものだが、この客からは一切の知性が感じられない。

しかし、「そういうタイプ」の天才も存在する。ボサボサの寝癖でヨレヨレのTシャツを着て、長らく手入れをしていないであろう無精ひげを触りながら、猫背でニヤついて革新的な発言をするタイプの天才。この客は、そのタイプの天才なのかもしれない。天才的な頭脳をもって乳酸菌が不老不死の鍵を握ることを確信したが、その理論を理解できない有象無象によって学会を追放されてしまったのかもしれない。失墜し研究室を失った結果、狭いアパートで研究を続ける事となった天才は、乳酸菌の調達のために8kgのヨーグルトを買ったのかもしれない。

恐らく配達員はそのような思考の末に僕の部屋を覗いたのだろう。客が天才科学者なら、部屋に何らかの実験装置があるはずだ。宇宙船のような見た目の巨大な解析装置が部屋の大部分を占めていてもおかしくない。しかし、ちらっと覗いた範囲ではそのような装置は見つからなかった。部屋にあるものと言えば、お菓子のゴミと脱ぎっぱなしの靴下くらいだ。

 

風貌も部屋も天才然としていない。となると、あの客はヨーグルトを食品として消費するのだろうか? 8kgを……1人で?

なんてもやもやを胸に抱え、疑問符を頭に浮かべながら配達員は帰って行ったのだと思う。

 

 

僕は天才乳酸菌科学者ではない。ただただ、一人で食べるために8kgのヨーグルトを買った間抜け面の成人男性だ。これが真相だよ、配達員さん。

パカッ(ヨーグルトを開封する音)デロデロデロ(ヨーグルトを食器に流す音)ブッ!!ブビーーーーーーッッ!!!ブッピ!!(ヨーグルトにハチミツを噴射する音)ペロッ(ヨーグルトを食べる音)

 

うん、おいしい。