10月15日(土)
髪が伸びてきて鬱陶しい。
髪はなぜ存在するのか? という問いに対する一番メジャーな答えは「人体の中で最も大切な頭部を守るため」であるが、頭を守るためならば、こんなにモサモサしてすぐ伸びる鬱陶しいものにする必要はなかったのではないか。
例えば頭蓋骨をもっと分厚く頑丈な構造にして、金属バットで殴ったら金属バットのほうが凹むくらいの石頭になれば、髪なんて要らないだろう。それをこんなにモサモサした鬱陶しい構造にした神は、もしかすると生き物を作るセンスが無いんじゃないか、と思う。
神と話す機会があれば、生き物の作り方についてみっちりレクチャーしてやりたいところだ。髪を作ろうとしている神の手をガシッとつかみ、「いや、そんなものはいらないですよ。ほら、こうやって石頭にすれば、髪なんて不要じゃないですか?」と言ってやりたい。
多分神は「おお、全知全能であるワシすら気づかなかった不具合に気づくなんて、お主は何たる着眼点の鋭さ。まさか自分が作った人間にものを教えてもらう日が来るとは思わんかったわい。」と驚くだろう。
それに対し僕は謙遜し、「子は誰しも、いつかは親を超えるものですよ」と言う。
「ふむ……そうじゃのう……」と髭を扱きながら考え、「お主、ワシに変わって生き物を作ってはくれぬか?」と提案する神。
生き物の作り方をレクチャーするつもりはあっても、まさか創造そのものを任されると思っていなかった僕は驚く。「僕が、ですか?」
それを見た神は視線を遠くにやり、「そうじゃ。生き物を作るセンスに関しては、お主の方が鋭いものを持っているようだしのう。」とつぶやく。
突然の提案に驚きはしたが、生き物の創造は本来人間ごときが任されるものではない素晴らしい作業だ。それを断る理由などない。「…うまくできるか分かりませんが、できるだけ良い物を作って見せます」
決意に満ちた僕の目に視線を戻した神は「ほっほ。楽しみにしとるよ。」と笑う。いや、笑ったように思えた。
気づくと神は姿を消しており、そこには僕だけが一人立ち尽くしていた。もしかすると全ては幻覚で、本当は神と対話なんてしていなかったのではないか。そう思うほどに、神はきれいさっぱり消えていた。
しかし僕には対話が幻覚などではないという確信があった。どういうメカニズムかは知らないが、僕は生き物の作り方を完全に理解していた。神の力だろう。人間ごときがメカニズムを理解できるはずがない。
神と対話する前までは知らなかったはずなのに、どうすれば生き物を創造できるかが分かる。まるで誰にも教わっていないのに呼吸ができるように。
能力を授けてくれた神に感謝しつつ、僕はさっそく生き物の創造に取り掛かるのだった。
最初に作った生き物はハダカデバネズミ。「毛は無駄」というアイデアを最大限に生かした動物だ。
10月16日(日)
髪を切りに行った。