2年前に毎日カーテンを開け閉めするのが面倒になってから、僕の部屋のカーテンはずっと閉めたままになっている。
部屋はずっと薄暗く、アナログ時計が指す「11時」が「11時」なのか「23時」なのか分からない。これは多少不便ではあるものの、薄暗い部屋が嫌になったら外に出れば良いし、今が11時か23時か知りたければスマホのデジタル時計を見れば良い。
このようにカーテンを閉めている事のデメリットは簡単に解決できてしまい、毎日カーテンを開け閉めしなくても良いというメリットのほうが魅力的に映るので、その結果として僕の部屋には2年間ずっと日光が差し込んでいない。
...はずなのだが、今日の朝起きるとカーテンが少し開いていた。
カーテンを閉め切っているという事は2年間窓にも触れていないという事であり、2年間窓の鍵は閉まりっぱなしという事である。
そのため、部屋に風が入って来る事もなければ、窓から誰かが侵入することもできない。カーテンに触るなら部屋の内側から触る事になるが、ここ数週間、誰も部屋には招いていない。僕自身もカーテンに触れた記憶は無い。
自分で覚えていないうちにカーテンを触った可能性も考えたが、恐らくそれは無いだろう。僕はこの数年間 酒を飲んでおらず、少なくともカーテンを最後に触った2年前からの記憶はすべて保持している。また、夢遊病の症状もない。
となると、残る被疑者は超能力者か未来人か宇宙人の、現代科学では説明できない技術を持った存在に限られる。そのような存在が、何か大きな目標を果たすためのタスクとして、昨日の夜僕の部屋に忍び込んだとしか考えられない。
超能力抗争のキーとなるアーティファクトが出現した座標がたまたま僕の部屋の中だったとか、未来で起こる第三次世界大戦を阻止するには僕の部屋を起点としたバタフライエフェクトを昨日の夜に起こす必要があったとか、宇宙の因果律を正常に戻すための調整を宇宙人が行い、その作業場所が地球上で最も磁場の安定した僕の部屋だったとか。
だとすると、すごくもったいない事をした。超能力者や未来人や宇宙人に出会うチャンスなんて、今後の人生ではもう無いだろう。昨日の夜もう少し夜更かしをして、彼らにサインをもらえば良かった。
超能力でペンを動かして書かれたサインとか、今の時間平面には存在しない漢字で書かれたサインとか、宇宙語のサインとかを、部屋に飾りたかった。